和氣日向(わきひゅうが)さん
Q:移住の決め手は?
東京のど真ん中で育った和氣さん。
高校卒業と同時に臼杵へ移住されました。
歳の頃は19歳。
渋谷・原宿が庭だったイマドキの若者が、臼杵になかなか馴染めずにいたことは想像に難くないことでした。
和氣さんのご家族は下北沢でカフェを経営すると同時に、臼杵に移住してから系列のカフェ開業し、現在はゲストハウスも営んでいます。
そのゲストハウスのマネージャーになるべく、和氣さんもご家族を追って移住したということです。
「臼杵ってどこ?ってところからのスタートでした。最初はどうなっちゃうんだろう、私…って気持ちが強かったです」と話してくれました。
初めて彼女を見た時のことをお話ししたいと思います。
ヘアスタイルは坊主、シースルーの上半身に超タイトなミニを合わせ、唇には真っ赤なルージュをあしらい、平日のお昼に商店街を颯爽と闊歩していました。
この日がスペシャルな訳ではなく、彼女はいつもスペシャルな身なりなのです。
またそれが堂々としていて様になっているのです。
一言でいうと、「ヒュー!! カッチョイイ!!」と、すれ違い様に言っちゃうようなトレンディドラマのワンシーンを観ているみたいな…。
この個性を消さずによく臼杵で生活をしていたなぁという、老婆心さながらの率直な感想を伝えてみたところ、
「最初はすごくつまんなくて。高校時代は渋谷や原宿に通って遊んでいたので、そういう場所がここにはないし、“ちょーつまんないや”って思ってました。仕事は家族経営で、親が上司というのも窮屈な環境だったので、ストレス解消できるモノ・人・場所がない状況でした。何度も家出を考えました」。
若者の聖地から若者不足の臼杵にきた当時の、やり場のない胸の内を語ってくれました。
「ここに来たての頃は、まだ高校生気分が抜けてなかったんです。ここにきた以上はゲストハウスを運営していくわけで。一経営者としてやっていかなければならないから、父親はすごく厳しかったですね。“お前のせいで潰れるぞ”って言われたり(笑)。そのせいで家出も考えたけど、突き詰めて考えていくと、それも愛なのかなと思えるようになりましたね」。
経営者として叱咤してくれるお父さんの立場、これから背負っていかねばならない自分の責務としっかり向き合えたからこそ、今の和氣さんがあるのでしょう。
そしてもう1つ、
彼女が逃げ出さずにここまでこれたきっかけが、竹ぼんぼりのお祭り「うすき竹宵」でした。
「竹宵の準備のとき、商店街の青年部のお手伝いをさせていただきました。そのとき初めて、近所の方ときちんとお話ができたんです。仲良くなって可愛がってもらって。そうして自分の居場所がだんだんできてきました。初めて楽しいって心から思えるようになりました」。
くすぶっていた約半年が過ぎ、ようやく居場所を見つけた和氣さんでした。
19歳とは思えない、穏やかな口調でこう言いました。
「今は臼杵が故郷だなって思えます」。
Q:臼杵の人の印象は? 移住されてみてどうでしたか?
「独特の個性があって、東京では巡り会えない人たちが臼杵には多い」という和氣さん。商店街に系列のカフェがあるので、自然と商店街の人たちと仲良くなるそうで、多くは50代のおじさまだと言います。
「みなさんと30歳くらい違うかも(笑)。でも元々私が昭和歌謡や古い映画が好きなので、話が弾むんですよ」。
彼女の居場所は、意外に近くにあったということ。
しかも驚いたことに、あの移住当初のヘアスタイルを受け入れてくれたのは、東京の人ならぬ、臼杵の人だったそうです。
「奇抜な私を見て、拒否反応を起こす感じでもなかったですね。“似合うね”って声をかけてくれる人もいて居心地が良かったです。東京の方が受け入れられなかったかも。そう考えると見た目で判断する人が多いのは、東京の方かもしれないですね」。
そんな和氣さんが感じる臼杵のいいところは、「なにもないこと」だそうだ。
渋谷や原宿も名前が違うだけで大体そこに点在する店は一緒だという。たとえばH&Mみたいなファストファッションのお店とか、どの駅にもあるチェーン店もしかり。
「結局、渋谷も原宿もその街の個性があまりないのかもしれないですね。逆に臼杵はチェーン店が少なくて、個人商店で成り立っているからこそ、個性が際立っていると思います」。
今後の和氣さん自身の展望について聞いてみました。
「今ある風景を変わらず残したい。そのために土地の需要を増やして、移住者を促して行きたいです。いつかニューヨークにもゲストハウスを立ち上げたいと考えています。臼杵と東京とニューヨーク、3ヶ所をうまく活用していけたら…」。
そしてこのプロジェクトの封切りとして、移住者の和氣日向という1人の若者が、臼杵の人々にインタビューをして映像を撮って、1本のドキュメンタリーを作りたいという構想も描いている。
「19歳の移住者という目線から、臼杵や商店街の街並みを見て感じたことをカメラで捉えたい。それを世界に発信できれば…」
臼杵でお商売をしている人たちの中で生活しながら、先人の方々の暮らしぶりを観察し、商店街の一員として還元しようとしているのをしっかり感じました。
Q:移住を検討している人へ
「臼杵は面白いところ、人も優しくて理解もある人が多いので、思い切って移住して欲しい」と語る和氣さん。そして「ぜひ何かに携わって欲しい」と強調して言います。
「私はゲストハウスっていう現場を活用して居場所を見つけることができました。自分も生活が楽しくなるし、まちの活性化にもなる。臼杵にある原石を見つけて、磨いていくのは楽しいですよ」。
“こういう風景がまだ日本にあるんだ”が、和氣さんの臼杵に来てからの第一印象。
「城下町で歴史もあって、さらに海も山も近い。みんなが歴史と暮らしているまちですね。子どもたちの通学路も石畳で城跡を通って…。素晴らしい環境で育っていて羨ましいと思います」。
移住者の若きホープとして、これからの活躍に目が離せない和氣さん。
2018年11月で彼女は成人を迎えます。
臼杵を受け入れた結果、彼女は周囲がびっくりするほどのスピード感で成長し続けています。
そして今日もスペシャルな普段着で商店街を駆け抜けているはず。
(2018年取材)